No.014 よく噛んで食べよう!!-パ-トⅡ-
先月は、小さいお子さんは、特にしっかり、よく噛んで食べる習慣をつけたいものです。と結びました。それを書いている時に思い出したのですが、生れつき歯の数の少ない外胚葉異形成症の子供の事を。生れつき歯の数が少ないと分った時から、家族全員、本当に歯の手入れをしてムシ歯など出来る余地のない程だという事を、昨年の暮”クリアー”に書きました。普通、物を噛んで食べるようになる事などは、正常に成長、発育していれば何でもない事の様に思われるのですが、その子にとっては、歯の数が生れつき数本しかないのですから、物を噛もうと思っても噛む歯がないのですから、当然、物を食べる時は、軟らかくて噛まなくてもよい物という事になります。 その様にして生まれてこの方、物を噛む事なく4歳まで育ってきた時に、私のところへ来られたのでした。私は物が噛めるようにと、入れ歯を作ってあげる事にしたのですが、実際に製作する段になって困った事が起りました。 その子には、噛み合せがないのです。カチンと歯と歯が噛み合う所がないのですから、どこで噛み合うように入れ歯の高さを決めればよいのか分らないのです。実際には、大人の総義歯の場合に使う方法や矯正治療で用いる方法など色々な方法を駆使して、その高さを決めたのですが本当に苦労したものです。その子に噛んでごらんと言って口を動かさせると、何と、口を上下に噛み合せるのではなくて、まるで牛がもぐもぐ食べる時のように上下左右に動かせるだけです。顎の関節の形などは、毎日毎日の噛み合わせによって、その形や動きが作られて、きちんと噛めるようになって行くようです。最近、噛めない子が増えているというニュースをよく耳にするのですが、噛めないから、しっかりとよく噛んで食べましょう、と言ってもすぐ解決する問題ではないのです。
よく噛んで食べられるようになるには、生まれてからそれまでの生きるためのエネルギー、栄養などを摂り入れるための生活の歴史があるのです。口の機能の発達過程を一つ一つクリアーしてゆかねばならないのです。人工乳、散らばって汚
いので手で食べ物をつかんで食べるのをやめさせて親が食べさせてやる、軟らかくて噛まなくてもけっこうおいしいインスタント食品の氾濫などなど、正常児で噛めない事の奥には現代文明の影が潜んでいるようです。