No.018 母乳を考える!!
明けましてお目でとうございます。1987年を迎え、皆様がたの御健康と御多幸をお祈り申し上げます。
”くりあー”もあしかけ3年目に入ります。今年は母乳のことからお話を始めましょう。
2歳3カ月の男の子が来院しました。お口の中を見ますと上の前歯の歯と歯茎の境目あたり全体がムシ歯です。こういうムシ歯は甘い飲物が関係していると見るのが小児歯科医の常識です。それで、お母さんに乳酸飲料など甘い飲物についてお尋ねしましたが、それらしき答が全然見あたりません。しかし、色々お話しているうちに、その子は未だにお母さんのオッパイを吸っている事が分ったのです。母乳がまだ出ているのかどうか分りませんが、という事だったのですが、どうも、このムシ歯は離乳の時期を失したダラダラ飲みが原因だったようです。そうこうしているうちに、同じような例が数例見つかりました。母乳には砂糖は入っていませんが、やはり寝ている時にでも、いつでも好きな時にお母さんの乳首を吸っていては1日中母乳が口の中に停留し、そのうちに乳酸発酵して、酸を作りムシ歯になるのは目に見えています。このような場合、よく聞いて見ると離乳がうまくいかない原因は、子供にあるのではなく、むしろお母さん自身が離乳できずにダラダラと来ているようです。やはり離乳は、生後1年ぐらいまでにはきちんとやりたいものです。この時期は子供の一生にとって摂食行動のもろもろの事を一つ一つクリアーして行かねばならない重要な時期なのです。
赤ちゃんを育てるのに人工乳がはやった時代がありましたが、色々な弊害が報告され、赤ちゃんは、その子の母親のお乳で育てるのが最も望ましいとされています。
顎の発育にとっても母乳栄養の場合は、舌や顎などによる乳房や乳首の”咬合”による圧出によって行われ、お乳を飲むのにかなりの努力が必要で、顎や口まわりの筋肉のトレーニングとなり、これが後の顎の発育や歯並びに重要な役割を果しているといわれています。
一方、人工栄養の場合は、上下の唇を乳首に密着したまま下顎を下降して口腔内圧を陰圧にする”吸引”が主体です。人工栄養で、乳首から容易に乳が出過ぎる場合は、顎の筋肉のトレーニングが不足となり、顎の発育不良となる可能性もあります。
子供はできうる限り自分のお乳で育てるのが自然であり、また理想です。離乳の時期もよく考えてあげたいものです。