No.026 歯は息でもうごく!!
先日、私の診療所へ2歳9カ月の男の子が虫歯の治療をしてほしいと来院され ました。お口の中を見ますと上の前歯の歯と歯肉の境目あたりが全体的に白くな り、一部に虫歯の穴があいていました。これは何か甘い飲み物と関係しているこ とはもう何度かお話ししたことです。そして、この子には歯と歯をかみ合わせた 時、前歯の間に大きなすき間が空いていたのです。これもほとんどの場合は指し ゃぶりが原因です。しかしこの子はそうではなかったのです。よくよく聞いて見 ると、この子はいまだにお母さんのオッパイを吸っているとのことだったのです。 そうです、お母さんの乳首が歯を動かせていたのです。ゴム乳首を吸う癖があっ て開咬になっているケースはまれにあるのですが、ほんものの乳首を吸ってとい うのは本当に珍しい症例だと思います。しかしこの様なことはあってもなにも不 思議なことではありません。長い間歯と歯の間に持続的な力がかかっていたので すから歯と歯肉は当然その力を和らげる方向で適応します。こうして開咬という 不正咬合ができ上がるのです。ゴム乳首の常用とか指しゃぶりなどの他にも口腔 習癖には弄舌癖、口呼吸、咬爪癖、咬唇癖、舌突出癖、歯ぎしり、毛布しゃぶり などなど10種類以上もあります。これらによって開咬、上顎前突、空隙歯列と いった不正咬合が起きるのです。鼻で息ができなくて口をあいて息をする習慣が あるだけで、どうして歯並びが悪くなるのか不思議には思いませんか。口を空い て息をしているときは唇には力が入っていませんね。そして息を吐く時は狭い口 のなかから吐き出すので圧力がかかりますが、吸う時はかかりません。こんな状 態がずうっと続けばそのうちに歯は前の方へ押し出されてしまいます。唇はそう こうしているうちに上の歯に押しやられて上の方で縮んでしまいます。唇など本 来いつも動かせて使っているものがあまり使われなくなると廃用性萎縮といっ て縮んでしまいます。歯のないお婆さんの唇がそれなのです。実際にはこの様な ときには舌を突き出すなどのことも重なっていることが多いのですが、歯は息の 力ででも動かされる物なのです。口周りの力のバランスの上に存在しているとい ってもいいでしょう。そんなデリケートな歯で何年もお母さんの乳首をかんでい たら歯はいがんでしまうのは当然かも知れませんね。ところで、指しゃぶりの場 合は指にタコができるのですが、乳首の場合はどうだったのでしょうか。