No.032 泣く子にも理屈!!
先日3歳の女の子が初心患者として来院しました。診療室へ入ってからという もの、ずうっと泣いています。よく聞いてみると、チューシャいや、チューシャ いやと叫び続けているのです。さて、前の子の治療も終わり、その子の順番です。 子供は3歳にもなれば大抵はお話しが通じるはずです。泣いている合間を縫って、 こちらが、今日はチューシャはない、チューシャはしない、と伝えるのですが、 泣き叫ぶ子供にもそれなりの理屈があるので、聞く耳などほとんどありません。 しかし、3歳を越えた子には、あまり強制的な治療はするべきではないと私は考 えます。そんな子でも本当は、泣きながらも周りの様子を窺っているものです。 今日は注射をしないと約束させられましたが、話は何とか通じるようになり、少 しずつ口を開かせたり、お話ししたりでやっこらさ、口の中の検診をする事がで きたのです。ところが、その子の口の中はそれは見事です。上の前歯4本は、歯 の形はもう既になく、根っこの残骸が歯肉から突き出ているのです。これは最近 ほとんどお目にかからない症例です。その原因は3歳を過ぎてもオッパイを吸っ ている事と乳酸菌飲料をかなり飲んでいたからです。上顎前歯と同様に奥の方の 歯も本当にひどく、左下奥の歯はもう既に神経は死んでいて痛々しく腫れていま す。これらの歯は何の疑問もなく抜歯の適応症です。しかし、私は今日ここで、 子供との約束を破って抜歯してしまうのは今後の治療を進める上で得策ではな いと考え、お母さんに、今日は簡単に済ませ、子供に歯科治療に対する恐怖心を 少しでも、先ず取り除く事の必要性を説いて、面倒でも明日もう一度来院して、 抜歯するようにお話ししたのです。お母さんの話ではここに連れてくるのも大変 だったので、明日また来られるかしら、との事です。しかし、あとあとの事を考 えてそうすることになりました。その時、お母さんの目頭が赤くなっていました。 普段お母さん方に子供の事を思って少しきつい事を言うこともあるかとも思い ますが、これ程ひどい場合はあまり親を責める事はしません。このような場合は 日常生活の中に何か考え違いがあってひどくなるべくして、 なっているケースが多いからです。こんな時は虫歯治療を進める中で少しずつじ っくりと再教育すればよいと考えます。