No.052 みにくいあひるの子の時代
先日、小学校一年生の女の子が来院しました。6歳大臼歯も生えそろい、その あと下の前歯も4本なんとかきれいに生えそろったところで、待ちに待った上の 前歯の萌出です。しかし、せっかく生え始めた大きな前歯ですが、どうもハの字 形に開いていがんでいる上に歯肉の上のほうで歯の先端が出ていて歯肉がすご く腫れて出っ歯になるのではないかと思われます。お母さんも本人も本当に心配 そうにしています。矯正したら治るのでしょうか。いくらぐらいかかるのでしょ うか。歯の大きさも異常に大きいのではないでしょうか。その上、歯の色も隣の 乳歯に比べて黄色っぽくて異常ではないでしょうか。よく見ると歯の先端に3つ のとんがりまでついていて変な形をしています・・・と心配はつきません。
このような心配で飛び込んで来られる方が1年に何人もおられます。普段から 子供の口の中、健康についてかなり熱心で、よく口の中を観察しておられるお宅 に多いようです。しかし、今、上に書いた事柄はほとんどの場合、全て正常な永 久前歯の交換期の状態なのです。
上顎の永久前歯が萌出する時、歯と歯の間が開いていたり、扇状になっていた りして、一見不正咬合のように思われる事があっても、成長発育の一つの過渡的 な現象で、その後の成長発育によって自然に調整されることが多いのです。ある 研究者によれば、上顎中切歯が萌出した直後の正中離開は70%に見られるけれど も側切歯、犬歯が萌出するに従って90%は自然に治ると報告しています。
このことを、イソップ物語を引用して、みにくいかみ合わせだからといって、 直ちに手を下すよりも、将来を正しく見守ってゆけば、美しい白鳥になるかもし れないということで、この時期を私たち歯科医は「みにくいあひるの子の時代」 と名付けているのです。
子供の成長発育の不思議な変化は正常な発育の十分な知識で注意深く見守ら なければ何ともいえない複雑なものであります。また、必ずしも正常な咬合にな っていくものではないので成長発育変化の継続的な観察が必要です。