先日、私の所属している大阪小児歯科専門医臨床研究会の研修会があり、その 時のお話しです。演題は「チベット民族の口腔内を診て感じた事」で、ヒマラヤ 登山隊に同行した先生のお話しです。

私は、はじめは、チベットの奥地へ出かけた時の話ですから、どうせ自然のも のをしっかり噛んで食べているのですから、虫歯はほとんど無いし歯肉も丈夫で した、といったお決まりのお話しではないかと思っていたのですが、以外にもそ うではなかったのです。 では、日本の地方都市の奥地のように今では都会と同 じように自動販売機があってダラダラお菓子を食べているから・・・なんて、い やいやチベットの奥地は今の日本では到底考えられないほど進んではいません。 子供がその辺にウンチをしてもあくる日には、他の動物がきれいに食べて片付い ていると言った具合に自然の中でうまくサイクルしているのです。残るのは登山 隊が持ち込んで捨てたゴミぐらいだということです。

電気もろくに灯らない未開の地です。そこにはヒマラヤの大自然があり動物が 悠々と生き、人間も自然の動物とそれほど変わりもなく時を過ごしているようで す。

その地は南に面しているのかチベットの他の地域に比べて気候が良く食べ物 に恵まれ、小麦、とうもろこしなどが収穫されます。そして、唯一の文明の利器 が水車小屋の中でまわる石臼です。人々は小麦やとうもろこしを収穫し、それを 水車小屋にもって行って粉に挽くのです。普段はそれを特に料理する事もなく粉 のまま口の中へポンと入れてエネルギーを取るようです。あるいは、お好み焼の 具の入っていないようなパンを作って主食とし、それ以外の食べ物はほんの少し です。砂糖はそこでは採れませんし他から入ってくる事もほとんどありません。 ですから年間砂糖消費量一人平均0といったところでしょう。ところで、その先 生が住民の口の中を調べたところによれば、それはひどい虫歯です。どうしてそ んなに虫歯があるのでしょうか。・・・はたして、その虫歯の原因はどうも粉に ありそうなのです。自然の形のまま小麦やとうもろこしを食べるのではなく、粉 末にすることによって噛むこともないのですから自然の浄化作用が働かなくな ってしまっているのでしょう。40日間もお風呂に入らなかったということです からそこでは当然歯を磨く習慣などもないでしょう。 水車と石臼といった文明の利器一つで住民の口の中は自然の浄化作用を失っ てしまったのです。

私たちのように、文明の進んだ社会で過ごす人間にとっては、やはり、それに 見合った衛生習慣を身につけ、自分の体を守る必要がありそうです。