先日3歳の女の子がお母さんに連れられて初めて来院しました。初めての来院 時に記入していただく問診表を見ますと今までに他の歯科医院にかかった事が あるけれども恐怖心が強く大泣きして治療ができない。との事で何軒もの歯科医 院に断わられ、小児歯科専門医院である当院にいってみたらということで遠い所 からわざわざ来られました。その問診表には、事細かくその子は特に音に敏感で 街を歩いていても工事の音がしたり、電車の通る音がしたりすると恐怖のあまり 歩けないぐらいだと書かれてありました。ということは、当然歯科の治療にはエ アータービンやエンジンなどなど大きな音のする器械器具がありますからこの 問診表を見た限りではこの子は、治療は恐怖のあまり不可能かのようにも思える ほどです。私はどんな特殊な子が入ってくるのかと思いつつ診察室にその子を呼 び入れました。予期した通り大声で泣いて入ってきました。腫物に触るかのよう にして、心無しか小さめの声で話しかけたものです。しかし取りつくしまもあり ません。とにかくお母さんを呼んで詳しく事情を聞くことにしました。お母さん はやはりこの子は特別に音に敏感で大きな音がすると立って居られないくらい だといいます。お話しの間も泣いていましたが話の途中で激しく泣いたりするで はありませんか。私はふとこの子は私とお母さんの会話に反応している事に気付 いたのです。

この子はゆっくりやさしく話をしてあげれば話は通じると見ました。 その日 は大きな音のする処置は避け、しかし歯の表面の汚れをこりこりと触っていると 少しおとなしくなったので間髪をいれずに薬を塗って大いに褒めて次の約束を して帰しました。

次回の治療でも始めは泣いていました、普通は虫歯でも少し削るだけでも痛そ うな、大きなものから始めるのですが、この子については簡単な楽な処置から始 め、少しずつ大きなものへとやさしく説明をし、褒めながら治療を進めていくう ちにだいぶ慣れてきました。少し自信がついたところでお母さんにも大いに褒め てあげるように言いました。一旦自信が付き出すと、当初は考えも付かないほど の事もできるようになります。そうするとまた褒めてもらえます。現在では、き ちっと挨拶もできるし大きな音でも何でも平気です。これがほんの一カ月以内の 変化ですから驚きです。お母さんにお聞きすると、お家でも本当にお利口になっ たようで感謝していただきました。いかにも特殊なおかしな子と決めてしまって、

そのまま大きくなったら大変なところでした。いつもこんなにうまくいくとは限 らないのが難しいところで、まだまだ修行しなければならないところです。